花が咲かない椿作品紹介ミリオン・クレイン 染谷千鶴の果てしなく続く物語 > ミリオン・クレイン バックステージ > #2 本当にあった話 「永遠の光」

ミリオン・クレイン バックステージ
Million Cranes, The backstage of Someya Chiduru

#2 本当にあった話 「永遠の光」
※第六章のネタバレあります、ご注意下さい※

 二組の合唱が終わり、三組の出番が回ってきた。合唱隊はステージの壇上に上がっていく。桜木は指揮台に立つ。あたしはピアノの前に座って楽譜を開き、ポケットに忍ばせていたケミホタルをピアノの台に置く。客席に目をやると、藤崎先生が心配そうな表情で見守っているのが見える。

 一呼吸置いた後、桜木が指揮棒を持つ手を高く掲げ、あたしに目で合図した。あたしは小さく頷き、『ステージ』の伴奏を始めた。美しく切なげな調子の序章を経て、本編の物語が始まる。

(『ミリオン・クレイン 染谷千鶴の果てしなく続く物語』より)

中学二年生の時の実話がもとになっています。
 「第六章 永遠の光」には、合唱コンクールでのエピソードが登場します。千鶴のピアノ伴奏に併せて、二年三組合唱隊がケミホタルをふりながら歌って藤崎先生を驚かせる(泣かせる)シーンもあるかと思いますが、これは私が体験した実話がもとになっています。
 どこまで実話かというと、登場人物などの細かい設定を除いた全体のストーリーの流れとしては、実際にあった出来事そのままといっていいかもしれません。私が中学二年の時、担任の先生が校内合唱コンクールでの優勝目指して大張り切りでクラスのみんなを練習に先導したのですが、男子達がふざけて真面目に歌おうとしません。それで先生が怒って(スネて)しまい、コンクール直前に反省した彼らによってケミホタル大作戦が提案されて……。作戦は見事大成功、優勝は他のクラスに譲ったものの、堂々の二位に輝く。そして先生はクラス通信号外を発行&号泣(記事本文より)……といったエピソードです。私はピアノ伴奏だったので、千鶴視点からの描写もこの時の自分の記憶を書き起こしたような感じですね。
 
藤崎先生のモデル!?
 物語の中で藤崎先生が書いていたスポーツ新聞風のクラス通信も、担当教科が体育だったこの時の先生が本当に発行していたものをイメージしました。クラス通信の記事本文の書きぶりや当時の怒り具合(スネ具合)などもこの先生そのまんまで、書いていて懐かしくなってしまいました。そういえば同じくギターが趣味で、自分の作った曲を教室で弾き語りしてくれたことなんかも……。
 藤崎先生ほどかっこ良い先生ではなかったですが(笑)

夢のノベライズ、15年の時を経て実現
 そんなわけで、この合唱コンクールでの出来事は非常に思い出深く、いつか物語としてまとめてみたいなと考えていました。時代の流れを反映して?LEDペンライトに変えようかとも考えましたが、ケミホタルの方が素朴な感じでいいかと思い、結局ほぼそのまま再現する形となりました。
 あれから15年の時を経て、この小説の中での1エピソードとしてノベライズできたことを嬉しく感じています。

ちなみに……
 このエピソードは、「ケミホタルの光」というタイトルでエッセイとしても発表しています。小豆島の「二十四の瞳映画村」主催の第9回二十四の瞳 岬文壇エッセイ賞で佳作を頂きました。
 著書エッセイ集『花が咲かない椿』にも掲載しています。よろしければご覧下さい(宣伝)

「なるようになるし、時には奇跡だって起きるんだね」
 あたしは即日発行された藤崎新報号外の記事に目を通しながらふっと笑った。


(2013/05/06)


  >BACK